私の進むべき道 ①
全世界的なリネンの不作を受け、じわじわと生地の値上がりが始めたのが昨年だった。
それも半期単位とかいうものではなく、月ごとに上昇した。
Takane Sewing Studio の服も、これ以上の生地原価を超えてはいけないという限界設定がしてあるのだが、それをも易々と乗り越えてしまった。
「このままだと服が作れなくなる。」
短期的に見れば、今ある材料で仕上がった服を売ってしまえばいいのだが、その次の作らねばならない服の材料が買えなくなってしまう心配もあった。
さらに追い打ちをかけるように、今まで使っていた生地の生産が続々と終わりを迎えてしまう。
生地を織るための原材料の高騰なのか、そもそもの織り屋さんが高いリネンの糸で生地を作るのを断念したのである。
特にTakane Sewing Studio が必要とする生地は、ボトムスには必須条件である、透けることない充分に厚みのあるもの。
その生地を織るためには、多くの原材料を必要とするのであろう。
その生地たちが、いっせいのせ!で問屋さんの店頭から姿を消したのだ。
アスタ「今年(2024年)のリネンの収穫状況はどうなの?」
たかね「問屋さんに確認してみたところ、幸いにして、まずまずといったところのようです。」
アスタ「地球全体の気候が変動していることも影響があるのかな?」
たかね「それに加え、紛争があちこちで活発になっていることも要因らしいです。」
アスタ「Takane Sewing Studio の服も、今年の夏頃にお値段の改正を余儀なくされました。」
たかね「私もひとつのモデルを、長く安定的に作ろうと思うと、どうしても無理はできません。」
アスタ「全部一人で作っていると、コストを下げようにも、これ以上削る場所もないよね。」
たかね「簡単で楽な方法を模索するのも、ちょっと私らしくないなぁとも感じています。」
アスタ「でも一度値上がりした原材料価格は、また元のように値段が下がるかなぁ?」
たかね「ほんの少しは戻るような気がするけど、時間はかかるかも。ましてや生産を一度止めたものを復活させるのは、とても大変なことだと思うの。」
アスタ「年単位の時間が必要かもね。。。」
たかね「それに今までの生地の値段が本当にフェアトレードだったのかと疑問に思うことさえもある。」
アスタ「原材料の生産をしている農家さんや製糸工場、染色工場、機織り屋さんまでのその作業工程を見学すると、我々が買っていた生地の単価からその対価が平等に支払われていたのか?と思うと不安になってくるよね。」
たかね「でも正直、私みたいに小規模な工房は、残念ながらそれを確認する術もないから、生地を売ってくれるお店のご主人を信じるしかない。」
アスタ「そうなると、どんな形になるのがTakane Sewing Studio にとって理想だと思う?」
たかね「今後、Takane Sewing Studio みたいな小さな事業所は、私たちの置かれている現状などを、正直にありのままを伝えていくことが大事なのではないかと感じています。」
アスタ「たとえばどんなこと?」
たかね「具体的には、お値段なんだけど、その値付けの真意など、もっとあからさまにしてはどうかと思うの。」
アスタ「え!?それってさ。原価とか仕立て代とかを全て公表するってこと?」
たかね「そう。Takane Sewing Studio なんて小さすぎて、ハイブランドに対して信用が無さすぎると日々感じます。」
アスタ「ふーむ。それは確かにそう思う。」
たかね「なぜこのお値段になるのか、しっかり伝えていくことも大事ではないかと。。」
アスタ「ちょっと驚く展開だけど、それって誰もやらない手法だよね。でも、もしかしたら僕らのように小さな工房だったらできるかもね。面白い。」
たかね「そうなの。それを知られたからといって、何もマイナスになることはないと思うの。」
アスタ「原材料が高くなったからと言って、その代替品を探しにいくのではなく、気に入ってずっと使いたい物であれば買い続けることも大事だしね。」
たかね「例え問屋さんを挟んで買い続けるとしても、今、私が生産者さんたちにできることは、それしかないのよ。それをやめてしまったら、そもそも天然素材生地の業界自体が地球から消えてしまうかもしれない。それでは元も子もないのよね。」
アスタ「それをも理解してお買い物をしてもらうということは、単にTakane Sewing Studio だけから商品を購入しているって現象だけでなく、末端の生産者さんを意識できるってことは、もしかしたらとても有意義かもね。」
たかね「ひとつの大きなループのようなものを、みんなで感じ取っていければなと思うのです。」
アスタ「今後生地の単価が下がってきたら、今ある服の値段も下げることはするの?」
たかね「もちろん。それは考えている。」
アスタ「でも半年前に高い販売代金で買ったお客さんにとっては、ちょっとショックじゃない?」
たかね「私がお客様の立場だったらそう感じてしまうと思う。でもそのまま利益率が高い状態で販売するのも、私にとっては嘘を付くようなものだと感じるんだよね。」
アスタ「価格改定のサイクルは、どのくらいに考えている?」
たかね「1年に1度くらいは見直さなければなと思います。もちろん、値下がりするものもあれば、逆に上がってしまうものもあるかもしれないし。」
アスタ「だとすると、なぜそういう値付けになるのかを全てお話しする意義はあるかもね。」
たかね「その際、細かな金額を表示するか、服全体を%で明示するかは、今悩んでいます。」
アスタ「在庫処分セール!とかはやらない?」
たかね「絶対にしない。と言うか、できない。余剰品とか、売れ残り品とか私の服には、そもそもその概念がないもの。」
アスタ「それはそうだね!ひとりで数着ずつ作っているのだから、多く作りすぎることもないし、品質が満たないアウトレットさえも生み出されないしね。」
たかね「どんなに懇意なお客様に対しても、お値段上でのサービスは経験ないし、今後もそれはすべきではないと思っています。サイトの機能で会員お客様限定へのポイント制も導入できるみたいだけど、それも違うと思っている。お値引きもポイントもそれをするなら、元々の販売価格はそもそもなんだったの?って思う。最初からお値引きやポイント還元後のお値段で販売すればいいじゃない?って思うのよ。それに会員限定価格って不公平すぎて嫌です。どなたにも公平で開かれたショップにしたいと望んでいます。」
アスタ「送料も一律1000円だよね。」
たかね「お客様の住んでいる場所で損得を感じて欲しくないのです。私たちは埼玉に場所があるけれど、近くても遠くても、宅配便で遅れるサイズなら小さくても大きくても、離島にお住まいであろうが同一料金です。(海外発送は別途)」
アスタ「送料無料ってのもあるじゃない?」
たかね「でもそれって価格の中に送料が含まれてるってことでしょ?複数商品購入の場合は、余計な送料を支払ってることになるから結局多くをお客様が負担してしまう。」
アスタ「いろんなセール企画やポイント制、送料を無料にしても商売が成り立つ大手ってすごいね。僕らにはそんなスキルもないから、できることと言えば、正直になることくらいしかないです。」