
「日々の深呼吸のような服を。描くことから、縫うことへ。」WEB担当 夫・望月明日太からみた「たかね裁縫所」
一枚の布が、自由にする。
「Takane Sewing Studio(たかね裁縫所)」は、妻・望月たかねが営む小さなアトリエです。
デザインを考え、型紙を引き、生地を裁ち、ミシンを踏んで、お客様へ届ける。
そのすべての工程を、彼女はひとりで行っています。
彼女が選ぶのは、リネンや麻といった、肌が深呼吸できるような自然素材ばかり。
袖を通した瞬間、ふわりと心がほどけていく。そんな「暮らしに寄り添う服」が、ここから生まれています。

キャンバスに向かって油絵を学んでいました。
私たち夫婦は1968年生まれ。
出会いは高校2年生、美大を目指す予備校でのことでした。
毎日遅くまでデッサンや油絵に没頭し、共に多摩美術大学へ進学。
当時の日々は、今の私たちの感性の土台になっています。
その後、ようやく私たちは、かって学んできた事を言葉にして表現できるようになりました。
「デッサンとは描くことにあらず。正しく疑い、真実を見抜くことである。」
表面だけをなぞるのではなく、その奥にある本質を観察すること。
妻が作る服がシンプルなのに、着る人を素敵に見せてくれるのは、きっと彼女が培った「デッサンの目」を持っているから。
布の落ち感や、身体を入れた時の空間の美しさを、彼女は本能的に「見抜いて」いるのだと思います。
予言された「まさか」。ある日突然、動き出した裁縫所。
卒業後、それぞれの道を歩み、再会して家庭を築いた私たち。
子育てを中心とした穏やかで自然体な日々の中で、妻は表現への渇望を焦ることなく、静かに時を重ねていました。
転機は突然、そして不思議な形で訪れました。
ある日、ふと出会った占い師にこう告げられたのです。
「あなた、数年後に何か商売を始めるわよ。」
私たちは顔を見合わせ、「まさか!そんなことあるわけないじゃん」と笑い飛ばしました。
しかし、その「まさか」が、現実となったのです。
子育てが一段落した頃、まるで種が芽吹くように、彼女の服づくりはゆっくりと、必然のように始まったのです。

旅するように、6通りの自由を着こなす「タイパンツ」。
Takane Sewing Studioには、彼女がずっと作り続けたいと願っている大切なアイテムがあります。
それがオリジナルの「タイパンツ」です。
一見、リラックス感たっぷりのパンツですが、実はこれ、一着で6通りもの着方ができます。
紐の結び方ひとつでシルエットが変わるだけでなく、上下を変えれば「トップス」としても着ることができます。
「今日はパンツで楽に」「明日はトップスにして個性的に」。
そんなアイデアは、彼女がずっと美術の世界で「自由」に触れてきたからこそ生まれたもの。
旅先で荷物を減らしたい時にも、日常に遊び心をプラスしたい時にも、使う人の味方になってくれる頼もしい相棒です。

手仕事の温もりを、日常へ。
陶芸家として土に触れる私から見ても、布と向き合う彼女の姿は、妻の仕事は「職人」そのものです。
効率よりも、納得いく形や品質を出すこと。
大量生産よりも、手にとってくださる一人ひとりの顔を思い浮かべること。
あの日の予言から始まったこの仕事は、今では彼女にとってかけがえのない「生業(なりわい)」となりました。
彼女が奏でる、優しくて芯のある服たち。
ぜひ一度、その魔法を、袖を通して、心地よさを体感していただけたら嬉しいです。